連載『閉店まで、あと十日』 第8回
三日前 ― ひまわりのアイコン
突然のご連絡、失礼いたします。
投稿を拝見しました。すでに消されているようなので、別の方の転載で、ですが。
大阪に住んでいる二十八歳の会社員です。名前はひとまず伏せさせてください。
写真の方は、私の祖母かもしれません。
祖母は今年七十四歳で、大阪の施設に入っています。認知症があって、最近のことはほとんど覚えていませんが、昔のことはよく話します。
祖母は群馬の出身です。二十三のときに見合いで大阪に嫁いできたと聞いていました。でも祖母の話では、その前に一度、十九歳のときに東京の人との縁談が決まって町を出る予定だったそうで、その縁談は結局まとまらなかったと言います。詳しいことは誰も知りません。
祖母はときどき言うんです。「写真、取りに行かんとあかん」って。大阪弁と群馬の言葉がまざった変なしゃべり方で。家族はみんな何の写真か知らなくて、認知症の人が言うよくわからないことの一つだと思っていました。
先週施設に行ったときも、また言っていました。「写真屋さんに、写真、置いてきてもうた。取りに行かな」。
それで昨日、偶然あなたの投稿のスクショを見ました。
祖母の若いころの写真を、私は一枚だけ持っています。大阪に来てからの、二十五歳くらいのものです。並べてみたら首のかしげ方が同じでした。祖母は写真を撮られるとき、いつも少し首をかしげるんです。癖なんだと思います。
もちろん違うかもしれません。昭和の若い女性の写真なんて、みんな少し似ています。
それでも、もし万が一。
閉店は十月六日と書いてありました。
祖母を連れて行くことはできるでしょうか。施設の人と相談したら、車椅子で付き添いがいれば、日帰りなら行けるかもしれないと言われました。新幹線と在来線で四時間くらいかかります。祖母が四時間もつかどうかは、正直わかりません。
写真館の方がこういうことを望んでいらっしゃるかどうかも、わかりません。ご迷惑かもしれません。そうであれば、このメッセージは忘れてください。
長文失礼しました。
祖母の名前は芳江といいます。旧姓は関口です。
*
莉子は写真館のカウンターで、自分のスマホに出したこのメッセージを大黒に見せた。
大黒は老眼鏡をかけてゆっくり読んだ。二回読んだ。読み終わると老眼鏡を外して、しばらく何も言わなかった。
それから奥の部屋に行き、背伸びをして棚の一番上の奥から白い封筒を取ってきた。
「未引取 昭和四十六年五月」
大黒は封筒の名前の空欄にボールペンで書きこんだ。
「関口芳江様」
字はふるえていなかった。
「返事を書け」と大黒は言った。「六日じゃなくていい。五日の日曜にしろ。六日は、片付けで散らかってる」
読み終えて、どうでしたか