泣ける話・感動する話の短編集
1日1話、3分で読める短い物語。家族、恋愛、友情、動物、仕事、別れ。全219話を無料で読めます。
気分からさがす
新しい物語
合鍵、一本
スーパーの一角にある小さな合鍵屋。山がすり減って丸くなった古い鍵を一本持って、七十代の女性がやってきた。
鮭をくわえた熊
親友が新婚旅行で買ってきた木彫りの熊。「いらん」と言ったあの日から二十二年、熊は二人の家を黙って行ったり来たりしている。
家の電話を解約する日
昭和四十三年から五十八年使った家の電話を、やめることにした。回線が止まる正午の前に、七十九歳はスマホでその番号を押してみた。
燻製の本のあいだ
図書館の「ご自由にお持ちください」の棚でもらった燻製の入門書。ページのあいだに、知らない二人のメモが九枚挟まっていた。
父の豆知識は九割うそ
父の言う豆知識は、だいたい嘘だ。大学入試の朝、会場まで車で送ってくれた父が、降りる直前にまた何か言い出した。
二年三組の時計
中学二年三組の学級日誌。日直が毎日一行ずつ書き、担任が赤ペンで返事をする。十月のあるページから、教室の時計の話が始まった。
カツ丼二・五キロ
三十分で食べきればタダ、写真が壁に貼られる。体重五十二キロの高二が、商店街の定食屋のチャレンジメニューに挑んだ。
帰舎時刻
岩手から放たれた六羽のレース鳩。栃木の屋根の上で、六十八歳の男が帰りを待っている。
義実家メモ
結婚して最初の正月、夫の実家は大分の山の中。三日間で覚えた決まりごとを、妻はスマホのメモに書きためた。
一日四百十二円
仙台で一人暮らしを始めた十九歳の息子。その家計簿を、父は居間のタブレットで見てしまった。
百八十六段
長崎の実家の米屋を手伝うことになった。最初の配達先は、車の入らない坂の上。五キロの米を担いで階段を上る。
プール開放、十四日間
夏休みの小学校のプール開放。監視台の先生の前に、毎日水着で来て、一度も水に入らない二年生がいた。
仲人の時計
二十八年前に仲人をした元部下から、はがきが届いた。印刷の文面の下に、手書きで一行だけ添えてあった。
長考、四十日
札幌に転勤した高校の同級生と、LINEで将棋を指している。一手ずつ、気が向いたときに。もうすぐ二年になる。
もうひとりの佐久間さん
丁目がひとつ違うだけの、同じ番地の同じ苗字。四十年あまり、郵便を届け合ってきた相手の顔を、私はまだ知らない。
冷蔵庫はどっちが持っていく
四年いっしょに住んだ彼女と別れることになった。家具を分ける日曜日、黄色と青の付箋が用意された。
親子リレーまで十九日
小学二年の娘の運動会に、親子リレーがある。四十一歳、最後に全力で走ったのはたぶん高校の体育祭だ。
留守番の九官鳥
昭和四十六年の秋、出稼ぎに行く前の夫が、秋田のデパートで九官鳥を買ってきた。一万五千円もした。
十九時四十分の値引き
閉店まであと一時間二十分。スーパーの鮮魚売り場で値引きシールを貼るパートと、毎晩同じ時刻に来る作業着の客。
代打の三者面談
母は夜勤明け、父は名古屋に単身赴任。中三の弟の三者面談に、大学三年の兄が行くことになった。