創作恋愛・夫婦約4分

冷蔵庫はどっちが持っていく

吐き出す場所がないのでここに書く。長いし、オチもない。

四年同棲した彼女と別れた。どっちが悪いとかはない、ということにしてある。理由を書きはじめるとたぶん俺の言い分ばかりになるので書かない。一つだけ言うと、向こうが先に転職して生活の時間が合わなくなった。それで全部じゃないけど、それはある。

問題は家具だった。

二人で住んでた1LDKの物は、ほとんど割り勘で買ってる。彼女が「付箋で決めよう」と言い出して、ダイソーで二色の付箋を買ってきた。黄色が彼女で青が俺。欲しいものに貼って、かぶったら話し合う。日曜の朝十時に開始。俺はコーヒーを入れた。二杯。いつもの癖で。

最初は順調だった。ドライヤーは彼女。電気ケトルは俺。テレビ台は俺で、テレビは彼女(実家から持ってきたやつなので当然)。掃除機は二人とも貼らなかった。ダイソンのコードレスで、去年の冬に吸引力が落ちてから床に転がってたやつだ。じゃんけんで俺が負けて、俺のになった。勝ったほうが持っていかなくていい、というルールにいつの間にかなっていた。

で、冷蔵庫。

三年前にヤマダ電機で買った三ドアの三百四十リットル。八万九千八百円を半分ずつ出した。彼女は今度、駅の近くのワンルームに移る。冷蔵庫置き場は幅六十センチしかなくて入らない。だから俺のだろうと思ってた。

彼女は黄色を貼った。

「入らないだろ」

「入らないけど」

「じゃあなんで」

「売る」

半分は私のお金だから売って四万五千円にする、と言う。いや中古でそんな値段にはならない。そう言ったら「じゃあいくら」。調べたら一万八千円くらいだった。二人とも黙った。

結局、俺が九千円払って冷蔵庫をもらうことになった。PayPayで送るとき、メッセージの欄に何か書くか迷って、何も書かなかった。向こうからは「受け取りました」の通知だけ来た。アプリの自動のやつ。

ソファはどっちも貼らなかった。IKEAで買って二人で組み立てたやつ。説明書の絵がわからなくて二時間かかって、途中で一回本気で喧嘩した。ネジが四本余った。余ったネジはたぶんまだテレビ台の引き出しに入ってる。ソファは粗大ごみに出すことになって、千二百円のシールを貼るのは俺の担当になった。

ちなみに、ここまで読んで彼女がケチだと思った人がいたら、それは違う。俺が書いてるから俺に都合のいいところしか出てないだけで、向こうから見たら俺もだいぶ細かかったはずだ。半分くらいに聞いてほしい。

かぶったのは一個だけだった。パキラ。

リビングの窓ぎわにある、腰くらいの高さの観葉植物。同棲を始めた春に、駅前の花屋で千九百八十円で買った。最初は手のひらくらいだった。俺はあんまり世話をしなかった。水をやってたのはほとんど彼女だ。でも土の表面に白いカビが出たとき、ネットで調べて土を替えたのは俺だった。

葉っぱ一枚に、黄色と青の付箋が並んで貼ってあった。

「どうする」

「どうしよう」

それから三十分くらい、二人ともパキラの前に立ったり座ったりした。じゃんけんにしようとはどっちも言わなかった。

最後に彼女が「挿し木にしたら」と言った。枝を切って水に挿しておくと根が出るらしい。それで、と俺は言った。彼女がキッチンからハサミを持ってきて俺が切った。どの枝を切るかでまた少しもめた。

挿し木は彼女が持っていくことになった。俺は親のほうを残した。切ったほうが小さい。

先週、彼女は引っ越していった。冷蔵庫の扉にマグネットで留めたメモ用紙が残ってて、彼女の字で「たまご 牛乳 ラップ」と書いてある。いつのだかわからない。捨ててない。

パキラは切ったところが茶色くなってきた。調べたら、切り口には癒合剤というのを塗ったほうがいいらしい。塗ってなかった。

挿し木のほうに根が出たかどうかは知らない。聞いてない。

スレ違いならすまん。ラップは買った。

#眠れない夜に読む話 #大切な人に会いたくなる話

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