くすっと笑えていい話 75選
笑って、最後にちょっと胸にくる。重すぎない感動の話。
カレンダーの「ス」
台所のカレンダーに、月に何回か「ス」とだけ書いてある。父はスーパーの特売の日だと言う。でも、その店は水曜が定休日だ。
新聞読んではります
小六の孫と一緒に、六十二歳で英検三級を受けることになった。筆記は受かった。問題は、英語で話す二次の面接だった。
うちの曹長
大学三年の夏、家賃三万八千円の六畳に、手のひらほどのクモが出た。調べると、ネットでは「軍曹」と呼ばれて崇められているらしい。
羽根つき
結婚して六十一日目の日曜の夜。餃子を羽根つきにするかどうかで、夫婦ははじめて本気でもめた。
鮭をくわえた熊
親友が新婚旅行で買ってきた木彫りの熊。「いらん」と言ったあの日から二十二年、熊は二人の家を黙って行ったり来たりしている。
家の電話を解約する日
昭和四十三年から五十八年使った家の電話を、やめることにした。回線が止まる正午の前に、七十九歳はスマホでその番号を押してみた。
父の豆知識は九割うそ
父の言う豆知識は、だいたい嘘だ。大学入試の朝、会場まで車で送ってくれた父が、降りる直前にまた何か言い出した。
二年三組の時計
中学二年三組の学級日誌。日直が毎日一行ずつ書き、担任が赤ペンで返事をする。十月のあるページから、教室の時計の話が始まった。
カツ丼二・五キロ
三十分で食べきればタダ、写真が壁に貼られる。体重五十二キロの高二が、商店街の定食屋のチャレンジメニューに挑んだ。
義実家メモ
結婚して最初の正月、夫の実家は大分の山の中。三日間で覚えた決まりごとを、妻はスマホのメモに書きためた。
百八十六段
長崎の実家の米屋を手伝うことになった。最初の配達先は、車の入らない坂の上。五キロの米を担いで階段を上る。
長考、四十日
札幌に転勤した高校の同級生と、LINEで将棋を指している。一手ずつ、気が向いたときに。もうすぐ二年になる。
もうひとりの佐久間さん
丁目がひとつ違うだけの、同じ番地の同じ苗字。四十年あまり、郵便を届け合ってきた相手の顔を、私はまだ知らない。
親子リレーまで十九日
小学二年の娘の運動会に、親子リレーがある。四十一歳、最後に全力で走ったのはたぶん高校の体育祭だ。
留守番の九官鳥
昭和四十六年の秋、出稼ぎに行く前の夫が、秋田のデパートで九官鳥を買ってきた。一万五千円もした。
代打の三者面談
母は夜勤明け、父は名古屋に単身赴任。中三の弟の三者面談に、大学三年の兄が行くことになった。
十五個目のボール
三年間、うちの庭に飛びこんできた隣の子のボールを、私は一つも返さなかった。その一家が、熊本へ越していく。
ハゼ一匹
結婚して三十一年、竿にさわったこともない女房が、急に「釣りに連れていけ」と言い出した。
きなこを預かった二週間
娘一家がハワイへ行くあいだ、孫のハムスターを預かることになった。七十四歳、生き物の世話は五十年ぶり。
はじめての床屋
小学四年の男の子が、四つ折りの千円札を二枚にぎって、はじめて一人で床屋のドアを押す。
ポテトの端っこ
ファミレスのパート歴十年。口の悪いうちの横で、三年間レジを打ってきた高校生が今日で辞める。
冷蔵庫のホワイトボード
八十一歳の祖父に、免許を返してほしい。家族四人の話し合いは、冷蔵庫のホワイトボードの上で進んだ。
十一軒目の内見
「家、買おか」と嫁はんが言い出して半年。十一軒目の内見で、はじめて文句のつけようのない家に出会った。
石の連絡帳
小学二年のたいちのランドセルには、いつも石が入っている。新任の担任と、夜勤の多い母親が書きつなぐ連絡帳。
洗濯ばさみ
ベランダの洗濯ばさみが、ひとつずつ減っていく。犯人は、向かいの電柱に巣をかけたカラスだった。
通夜の寿司
祖母の通夜の晩、東北の実家に親戚が集まった。寿司桶の数で、大人たちがもめはじめた。
最後の一箱
健康診断で医者に言われて、五十六歳で禁煙を始めた。これが四回目になる。
スタンプの送り方
病院の待合で、隣のおばあさんに「これ、どうやったら動物のが出るの」とスマホを差し出された。
補習は一人
物理で赤点をとった夏休み。補習に来たのは、自分と、新任の先生だけだった。
実家の亀が四十歳になった
長くなるけど聞いてほしい。うちの実家には、父より先に家族になった亀がいる。
スピーチ原稿
高校からのツレの結婚式で、友人代表のスピーチを頼まれた。人前でしゃべるのが一番苦手な男に。
お迎え当番
保育園のお迎えをどっちが行くか。朝の夫婦のLINEは、だんだん関係ない方向へ。
網戸の張り替え
一人暮らしの娘から「網戸が破れた」と電話が来た。父は工具箱を積んで出かけた。
父とドラッグストア
中二の娘に頼まれて、父がはじめて買いに行ったもの。
ツッコミ担当
吃音の友達と、文化祭で漫才をやることになった。
柱の傷
実家を取り壊す前の日、兄の背比べの記録に不正が見つかった。
足を踏む人
六十八歳から始めた社交ダンス。夫はいつも足を踏んだ。
チャンさんのメモ
コンビニの留学生バイトが、国に帰る前に残したもの。
カブトムシの自由研究
八歳の息子が書いた、観察日記の最後のページ。
返しに来たゲームソフト
二十三年前に借りパクした兄のソフトを、弟が返しに来た。
仮免、三回目
六十五歳で教習所に通いはじめた母の話。
作文のうそ
塾の生徒が書いてきた「家族旅行」の作文。
入れ歯騒動
夫の入れ歯を探して、家じゅうをひっくり返した午後。
誤爆
別れて半年、元彼から間違えて届いたLINE。
ワゴンRで行く
結婚式の前の晩、娘が「あの車で行きたい」と言い出した。
四段の跳び箱
六年間一度も跳べなかった跳び箱を、卒業の一週間前に。
口で書く小説
字を読むのが苦手な少年の物語を、先生がノートに書き取った。
最後の在校生
島の小学校が閉校する年、たった一人の卒業生のために開かれた式。
余白のなっちゃん
祖母のレシピ帳どおりに作っても、あの肉じゃがにならなかった理由。
桜の木の下の家族写真
毎年同じ桜の下で撮った家族写真の、三十七枚目。
父宛ての手紙
死んだ父の空き家に出し続けた手紙を、受け取っていた人がいた。
錆びたブランコ
家出した夜の公園で、隣のブランコをこいでいた老人。
最初の百円
自販機の前で十円足りなかった日、スーツの男性がくれた百円玉。
杖の老人
東欧の町で迷った夜、言葉の通じない老人が宿まで歩いてくれた。
先生の0点
「先生も昔はダメだった」が口癖の担任の家で見つけたもの。
口パクの人
合唱コンクールで口パクを頼まれた私に、指揮者の男子が言ったこと。
全員でゴール
走れない友達のために、クラスで考えたリレーの作戦。
三年間の作文
定年退職する厳しい国語の先生が、最後の授業で読んだもの。
答案の裏
0点の答案の裏に描いた落書きに、数学の先生が赤ペンで書いたこと。
最後に覚えた漢字
夜間中学の七十二歳の生徒と、三年目の新米教師。
丸のついた献立表
給食室で三十年。毎日きれいに空になって戻ってくる食器があった。
三十年前のネジ
倒産寸前の町工場に、宇宙開発メーカーから電話がかかってきた。
よしこ
逃げたインコが見つかったとき、祖父の前で言った言葉。
カートの散歩
歩けなくなった老犬を、カートに乗せていつもの道を歩いた。
十一の名前
商店街の人たちが、それぞれ別の名前で呼んでいた一匹の猫。
ツケの紙
売れない芸人時代、定食屋の親父が壁から外したもの。
三十一通
転校していった人気者の机の中に、クラス全員分の手紙があった。
千円のショートケーキ
高校のときに貸した千円が、二十年たって封筒で返ってきた。
味噌汁の濃さ
四十年間、夫が文句を言わなかった理由。
見てもいい?
目の見えない彼女が、僕の顔にさわった日。
五十枚の便せん
「愛してる」と言わない祖父が、金婚式の日に渡した封筒。
七時十二分の各駅停車
毎朝同じ車両の、同じ本を読んでいる人。
背中の文字
口下手な兄が、弟の背中に指で書いた言葉。
弁当箱の蓋の裏
口をきかない娘の弁当に、母が毎日貼ったメモ。
ビリの理由
運動会でいつもビリの息子が、転んだ子の前で立ち止まった。