実家の亀が四十歳になった
長くなるけど聞いてほしい。どこに書けばいいかわからないからここに書く。スレ違いならすまん。
うちの実家に、亀がいる。クサガメで、名前は「ゲン」。父が小学五年のとき、近所の用水路で拾ってきたらしい。父は今年五十一。ということで、ゲンは推定四十歳を超えてる。亀ってそんなに生きるのかと思って調べたら、クサガメは三十年から、長いと五十年くらいは生きるらしい。マジかよ。
ゲンは、祖父母の代から実家の庭の、コンクリで作ったちっちゃい池にいる。池っていうか、昔の漬物樽を半分埋めたやつ。冬は勝手に土にもぐって冬眠して、春になると勝手に出てくる。エサは煮干しとキャベツの芯。世話してるのか放置してるのか、よくわからない感じで四十年。
で、本題。
去年の春、ゲンが冬眠から出てこなかった。
四月になっても出てこない。五月の連休になっても出てこない。父が毎朝、樽の横にしゃがんで土を見てた。掘ればいいじゃんって言ったら、「冬眠中に起こすと死ぬ」と言って掘らない。いやもう五月だよと。
母が「お父さん、朝ごはん冷める」って呼んでも、しゃがんでる。スーツでしゃがんでる。そのまま会社に行く。ズボンのひざが泥で白くなってて、母がブラシで叩いてた。
五月の終わりに、父がやっと掘った。スコップじゃなくて、手で。
いなかった。
樽の下も、周りも、庭じゅう掘ったけどいなかった。父は二日くらい庭を掘ってた。庭が、畑みたいになった。
ここで一回、家族全員あきらめた。父だけ、あきらめてなかった気がするけど、何も言わなかった。
六月。隣の家のおばあちゃんが、回覧板を持ってきたついでに言った。
「おたくの亀、うちの物置の裏におるよ。去年の秋から」
去年の秋から、だった。
ゲンは冬眠前に脱走して、塀の下をくぐって、隣の物置の裏の落ち葉の中で冬眠して、春に起きて、そのまま隣でナメクジとか食って暮らしてたらしい。隣のおばあちゃんは、うちの亀だとは思ってたけど、「楽しそうやったから」言わなかったと。いや言ってくれよ。
父は、隣の物置の裏に行って、ゲンを持ち上げた。ゲンは首を引っこめて、父の手におしっこした。亀のおしっこ、けっこう量ある。父はそのまま、ゲンを両手で持ったまま、うちまで歩いて帰ってきた。塀の外を回って。
「重くなったな、お前」
と父が言ってた。ナメクジ食いすぎ。
それから父は、樽の周りに金網を立てた。ホームセンターで二千四百円くらい。高さ三十センチ。ゲンは今のところ脱走してない。
今年、おれは就職で実家を出た。こないだ母から写真が送られてきた。
樽の前に、父がしゃがんでる写真。スーツで。ひざがまた白い。ゲンは、キャベツの芯をかじってる。
写真の下に、母の一言。
「お父さん、あんたにもこのくらいしゃがんでたよ」
いや、知らんがな。
長文すまん。以上です。
読み終えて、どうでしたか