創作友情約3分

スピーチ原稿

ツレの森本から「友人代表のスピーチ頼むわ」とLINEが来たのは、式の二か月前やった。

なんでおれやねん、と思た。森本には大学の友達も会社の友達もおる。しゃべるのうまいやつなんかいくらでもおる。おれは高校の三年間、同じクラスで、同じ野球部で、ほんで補欠同士やっただけや。

「なんでおれやねん」と送った。

「お前しかおらんやろ」

「おるやろ」

「おらん」

三往復で負けた。

そこから二か月、原稿を書いた。ネットで「友人代表 スピーチ 例文」で調べたら、なんぼでも出てくる。「新郎の〇〇くんとは高校時代からの付き合いで」。その通りや。その通りやけど、おれが言うたら嘘くさい。

一回目の原稿は、例文をほぼそのまま写した。読み返して、破った。二回目は、野球部のことを書いた。夏の大会、ベンチで二人でスポーツドリンクの粉を溶かす係やったこと。森本が粉の量をまちがえて、監督に「なんやこの薄いの」と怒られたこと。書いてて自分で笑た。でも、これを新婦側の親戚の前で言うてええんか、わからんかった。

嫁に読んでもろた。

「おもろいけど、新婦のこと一行も出てけえへんやん」

そらそうや。新婦のこと、知らんもん。二回会うただけや。一回目はお好み焼き屋で、森本がキャベツをこぼしたのを、黙って拾うてた。それしか知らん。

それを書いた。

式の当日、ホテルの控え室で、原稿を三回読んだ。トイレで二回読んだ。手汗で紙がふにゃふにゃになった。司会の人に「ご準備よろしいですか」と言われて、立ったら、膝が変な音した。

マイクの前に立った。二百人くらいおった。ライトがまぶしい。原稿を開いた。

一行目が、読まれへんかった。手汗で、ボールペンの字がにじんどった。

「……えー」

えー、が会場に響いた。後ろのテーブルで、誰か咳した。

しゃあないから、原稿をたたんで、ポケットに入れた。

「森本とは、高校で、野球部でした。二人とも補欠でした」

笑いが起きた。起きたんが意外で、そこで一回止まってしもた。

そっからは、何しゃべったかよう覚えてへん。スポーツドリンクの話はした。薄かった話。新婦のお父さんが、そこで一番笑うてた。キャベツの話もした。新婦が、手で口押さえとった。

最後、何を言うて締めたらええかわからんようになって、

「森本は、ええやつです。薄いけど」

と言うて、頭下げた。拍手が来た。何の拍手かようわからんかった。

席に戻ったら、隣の、森本の会社の上司っぽい人が「ええスピーチやったね」と言うた。

「原稿、読まれへんかったんです」

「そうやろね」

その人は、にこにこしながら、ビール注いでくれた。

二次会で、森本が酔っぱらってこっちに来た。何か言いかけて、やめて、おれのポケットに手ぇ突っこんで、ふにゃふにゃの原稿を勝手に持っていった。

「返せや」

「おれのやろ、これ」

それから一回も返ってきてへん。

#くすっと笑えていい話 #元気が出る話

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