全員でゴール
小五のクラスに、光太くんがいた。生まれつき右足に障害があって、走れなかった。
運動会のクラス対抗リレーは、全員参加。光太くんは「ぼくは出なくていい」と言った。クラスの足を引っぱるから、と。
担任の先生は、学級会の時間を使った。
「光太くんも一緒に出られる方法、みんなで考えよう」
いろんな意見が出た。光太くんの分を誰かが二回走る。光太くんは応援団長。光太くんをおんぶして走る。最後のは、光太くんが「絶対やだ」と言って却下された。
そのとき、クラスで一番足の速い女子が手を挙げた。美月。
「光太くんの区間は、全員で歩けばいいじゃん」
教室がざわついた。リレーなのに歩くのか。負けるに決まってる。男子の何人かが「は?」と言った。
美月は言った。「どうせ一組には勝てないじゃん。一組、陸上部四人いるし」
それは事実だった。
多数決で、ぎりぎり決まった。十七対十五。反対した十五人の中には、正直、僕もいた。
運動会の当日。リレーは普通に進んで、光太くんの番が来た。
光太くんがバトンを受け取ると、クラスの全員がトラックに出ていった。先生が本部テントにあらかじめ話してあったらしいけど、放送係の六年生は知らなかったらしく、「えー、五年二組、あの、全員出てきました」と実況した。会場が笑った。
光太くんは、一歩ずつ歩いた。僕たちは、光太くんの歩幅に合わせて、周りを歩いた。誰も急かさなかった。反対した十五人も。
途中で、光太くんが言った。
「これ、はずかしい」
「知ってる」と美月が言った。
半周歩いて、光太くんはバトンを次の人に渡した。会場のあちこちから拍手が起きた。他のクラスの子も、親も、先生も。
結果はぶっちぎりの最下位だった。一組より一周近く遅かった。
閉会式で、校長先生が何かいいことを言おうとしていたけど、マイクがハウリングして、よく聞こえなかった。
光太くんは今年、成人式だった。インスタに、あの日の写真を上げていた。キャプションは一行だった。
「はずかしかった」
読み終えて、どうでしたか