答案の裏
中二の数学の期末で0点を取った。
わからなかったわけじゃない。書く気がなかった。そのころ家で両親が毎晩けんかしていて、方程式どころじゃなかった。表は名前だけ書いて、裏に教室の窓から見える電線と、とまっているカラスを落書きして出した。
返ってきた答案には赤で大きく「0」。裏をめくったら、落書きの横に赤ペンでびっしり書いてあった。
「このカラス、うまいな。電線の手前と奥で太さが変えてある。遠近法、習った? 奥のカラスがちゃんと小さい。
数学の先生なので、絵の点数はつけられません。
問3は、きみなら解けたと思う。
何かあったなら、言いたくなったら言ってください。言いたくなければ、次も何か描いてください。先生は数学の答案として、両面見ます」
僕は答案をかばんの一番奥にしまった。親には見せなかった。0点だし。
次のテストでも裏に描いた。今度は野良猫。表もちょっと解いた。二十二点。裏には赤ペンで「猫の毛の向き、よく見てる。問5、符号だけ。惜しい」。
その次は四十一点で、裏はコンビニの前の自転車。その次は五十八点。裏にはなんとなく先生の横顔を描いた。似てなかった。赤ペンで「先生はこんなにハゲてない」と書いてあった。ハゲていた。
卒業するまで、先生は家のことを一回も聞かなかった。僕も言わなかった。答案の裏と赤ペンで、なんとなくやりとりをしていただけだ。
今、僕は漫画を描いて食べている。
デビュー作の単行本が出たとき、先生の中学に一冊送った。表紙の裏に赤ペンで書いた。
「先生は数学の先生なので、点数はつけられないと思います」
三週間くらいして返事が来た。ハガキ一枚。
「62ページ、背景の電線の遠近がおかしい。あと、先生は今、もっとハゲています」
62ページを見たら、確かにおかしかった。
読み終えて、どうでしたか