父宛ての手紙
父が死んでから、毎月一回、父宛てに手紙を出した。
宛先は、父が一人で住んでいた家。今は空き家。切手を貼って、ポストに入れる。誰も読まない。わかっていた。わかってて出した。カウンセラーの人に、書くといいと言われたからだ。「出す」とは言われていない。出したのは、自分でもよくわからない。
仕事のこと、彼氏と別れたこと、母が最近ヨガを始めたこと。父に言っておけばよかったことを、だいたい書いた。
一年たって、空き家を売ることになった。郵便受けに溜まっているはずの手紙を回収しに行った。
郵便受けは空っぽだった。
隣の家のチャイムを押した。出てきたのは、父と同じくらいの年のおじいさんだった。
「ああ、手紙ね。預かってる」
おじいさんは、輪ゴムでとめた十二通を持ってきた。
「宛先の人が亡くなってると、差出人に戻っちゃうだろ。それもなんだかなと思って。郵便屋さんに言って、うちで預かってた。読んでないよ。一通も」
「……すみません、ご迷惑を」
「迷惑じゃない。毎月、仏壇に報告してたから。あいつの」
おじいさんの家の仏壇に、父の写真があった。小さい写真立て。わたしの知らない、若い父だった。二十歳くらい。リーゼントだった。
「高校の同級生でね。六十年」
リーゼントの父は、何かのステージの上で、ギターを持っていた。父がギターを弾けるなんて知らなかった。
「あいつ、下手だったよ。ギター」
おじいさんは笑った。
家が売れてからも、わたしは手紙を出している。宛先を、隣のおじいさんの家に変えた。宛名は父。「様方」でおじいさんの名前。郵便局の人には、変な顔をされた。
おじいさんは毎月、それを仏壇に置いてくれる。たまに、返事が来る。
「今月も来た。ヨガはどうなった。あと、あいつのギターのテープが出てきた。聞くか。下手だぞ」
聞いた。本当に下手だった。
読み終えて、どうでしたか