洗濯ばさみ
三月の終わりから、洗濯ばさみが減る。
女房が福井の実家に戻って一年半になる。義母の世話だ。こっちは一人で洗濯をする。ピンチハンガーに二十個ついていた。それが十七になって、十四になった。女房がいたころは数えたこともないから、最初は気のせいだと思った。
犯人はカラスだった。日曜の朝、ベランダで煙草を吸っていたら、手すりに一羽とまった。目が合った。向こうはそらさない。こっちがそらした。
そいつはピンチハンガーの端に飛び移って、洗濯ばさみを一個、くちばしでひねって外した。ばちん、と鳴った。それを咥えて、向かいの電柱に行った。てっぺんの変圧器の上に、巣がある。
調べた。カラスは巣に針金のハンガーを使うらしい。洗濯ばさみの話はあまり出てこなかった。うちのが変わり者なのか。
対策をした。
一、古いCDをぶら下げた。三日で慣れられた。
二、目玉の風船。ホームセンターで六百八十円。一週間後、風船の上にとまっていた。
三、洗濯ばさみをやめて、全部ハンガーに通した。靴下が乾かない。
四つ目に、女房に電話した。
「カラス?」
「カラスだ」
「あんた、それで電話してきたの」
「そうだ」
義母はその週、デイサービスで折り紙の鶴を十羽折ったそうで、女房はその話を十分した。カラスの話は二分だった。
「何色使ってるの、洗濯ばさみ」
「白だ。ダイソーの」
「白は目立つのよ。カラスは白いのと光るのが好きって、テレビで言ってた」
本当かどうかは知らない。女房の「テレビで言ってた」は、半分くらい違う。
それでも次の土曜、ホームセンターで茶色の洗濯ばさみを買った。二十個入り、二百九十八円。レジの横に白いのの十個入りがあったので、それも一袋買った。
茶色で干した。白い十個は、袋から出して、手すりの端に並べておいた。
月曜の朝、白は七個になっていた。茶色は二十個ある。火曜で四個。水曜でゼロ。
下から見上げると、電柱の上の巣は、ところどころ白い。数えたら、見えるだけで九個あった。一個足りない。どこへやったのか。
五月の連休に、女房が二泊だけ帰ってきた。ベランダに出て、電柱を見上げて、しばらく黙っていた。
「あんた、あれ、餌付けじゃないの」
「違う」
「違わないでしょ」
「取引だ」
女房は笑って、洗濯物を取りこみはじめた。茶色の洗濯ばさみを外しながら、「これ、地味ね」と言った。
白いのは、百十円だ。
読み終えて、どうでしたか