長編『返事は、港で』 第6章
高校一年 ― 島を出る
No.33
拓海へ
鹿児島の高校に入りました。寮です。四人部屋。
島を出るとき、港で紙テープを投げた。今度はわたしが船に乗るほうだった。
おばあちゃんがテープの端を持ってた。船が動いてテープがのびて、ぷつんと切れた。切れたらおばあちゃんは切れはしを頭の上で振り回して、島の言葉で何か叫んでた。エンジンの音で聞こえなかった。
船の中で、同じ島から出る子たちとみんなで泣いた。今度は泣いた。
寮のごはんは量が多い。おかずが茶色い。
遥
*
No.34
遥へ
入学おめでとう。
おれは普通科の普通の高校。家から電車で一時間。
ラーメン屋でバイトを始めた。駅の裏のカウンターだけの店で、時給八百九十円、まかないが出る。
店長は無口な人。最初の一週間は皿洗いだけで、二週目からねぎを切らせてもらった。切り方が悪いと、何も言わずに横から全部切り直される。あれが一番こたえる。
でもまかないのラーメンはうまい。
たぶん料理の専門学校に行くと思う。まだ母さんには言ってない。
おばあさん元気?
拓海
*
No.35
拓海へ
料理の専門学校、いいと思う。
卵焼きの作り方の手紙(No.23)、まだ持ってる。寮の机の引き出しに入れてある。
あれ、けっこう役に立ってる。寮の調理実習のときに班の子に教えた。「三回に分けて巻く」。みんな「へえ」って言ってた。拓海の名前は出してない。
おばあちゃんは元気。電話すると最初の五分は民宿のお客さんの悪口で、そのあとがわたしのごはんの心配。毎回同じ順番。
おばあちゃんは、わたしが島に帰ってきて民宿を継ぐと思ってる。
わたしはわからない。
大学に行きたい。東京の。本を作る仕事がしたい。
これまだ誰にも言ってない。
言ったの、拓海が初めて。
遥
*
No.36
遥へ
言いにくいことを先に言われたから、おれも言う。
専門学校のこと、母さんに言った。
「料理人なんて、父さんみたいになる」って言われた。
父さんは焼き鳥屋でまだ働いてる。店長にはならないで、ずっと串を打ってる。母さんはそれが嫌いなんだと思う。
でも父さんの焼き鳥はうまいんだ。この前、店に食べに行った。父さんには言ってない。カウンターの端に座ったら父さんがおれに気づいて、何も言わないでつくねを一本おまけしてくれた。
おれは父さんみたいになってもいいと思ってる。
これ、母さんには言えない。
言ったの、遥が初めて。
拓海
読み終えて、どうでしたか