長編『返事は、港で』 第5章

中学三年 ― 修学旅行

No.26

拓海へ

大ニュース。

修学旅行は東京です。十月十八日から二泊三日。

自由行動が二日目の午後にある。班で動かないといけないんだけど、班の子に話したら「行ってこい」って言われた。一時間だけ班から抜けていいって。先生にはないしょ。

横浜は遠い? 東京のどこかで会えない?

遥

*

No.27

遥へ

横浜から東京は電車で四十分。遠くない。

二日目の午後はどこにいる。

拓海

*

No.28

拓海へ

浅草の雷門。午後二時から三時まで自由行動。

雷門の大きいちょうちんの下で待ってる。

目印は日焼け。

遥

*

(ここから先は、拓海の日記。ノートの一ページ)

十月十九日

雷門の下は人が多すぎて、修学旅行生だけで百人くらいいて、しかも全員日焼けしてないように見えた。

二時十分。わからない。

二時二十分、遥から電話。公衆電話からおれの家の電話にかけてきたらしいけど、家には母さんしかいなかったので、その母さんがおれの携帯に電話してきた。(携帯は先月買ってもらった。遥は知らない)

「遥ちゃんって子から電話あったよ。ちょうちんの、右の足の下だって」

右の足ってなんだ。

ちょうちんの下にある金色のでかい足みたいな飾りのところに、背の高い女の子がいた。セーラー服。日焼け。五年前より頭一つぶん大きくて、おれよりたぶん三センチ高い。

最初に言ったのは、たぶん「でか」だった。遥は「そっちが小さいんだよ」と言った。

それから何を話したか、あんまり覚えてない。

仲見世で人形焼きを買ったら、遥は「これ、中に何が入ってるの」と三回聞いた。あんこだ。三回ともあんこだった。

雷門の前で、遥の使い捨てカメラで写真を撮った。知らないおばさんに撮ってもらったら、おばさんは「もっとくっついて」と言った。くっつかなかった。

三時の五分前、班のところに戻っていくとき、遥が最後に振り返って言った。

「No.28 の次は、そっちの番だからね」

帰りの電車で、袋の底に残っていた人形焼きを食べた。あんこだった。

*

No.29

遥へ

浅草、来てくれてありがとう。

でかいって言って、ごめん。

写真、現像したら送って。

拓海

*

No.30

拓海へ

写真を入れておきます。

おばさんにくっつけって言われたのに、くっついてない。二人のあいだに人が一人入れそうなくらいあいてる。

帰りのバスで班の子に「どうだった」って聞かれて、「背が低かった」って言ったらみんな大笑いした。わたしも笑ったけど、笑ってたらなんか泣きそうになった。バスの中で。変だよね。

あとひとつ気づいた。

拓海、「おれ」って言うようになってたね。手紙だとずっと「おれ」だったけど、声で聞いたのは初めてだった。小学生のときは「ぼく」だったのに。

声も低くなってた。

遥

読み終えて、どうでしたか

← 第4章中学二年 ― もう書かない