長編『返事は、港で』 第4章

中学二年 ― もう書かない

No.19

遥へ

一年ぶり。

親が離婚した。

おれは母さんのほうについていく。父さんは焼き鳥屋で働きはじめた。前にバイトしてたところで、店長にたのみこんだらしい。

家はまた引っ越す。母さんの実家の近く。転校はしないで電車で通う。

それで、書きたかったのはそのことじゃなくて。

手紙、もうやめようと思う。

正直ダサい。今どき。みんなメールしてる。遥は携帯持ってないけど、おれも持ってないけど、それでも手紙ってなんか小学生みたいで。

それに何を書けばいいかわからない。書くことがない。書きたくないことしかない。だからこれで最後にする。

今まで、ありがとう。

拓海

*

No.20

拓海へ

手紙、読みました。

わかった。書かなくていいよ。

でも、わたしは書く。

拓海は返事を書かなくていい。読まなくてもいい。読まないで捨ててもいい。わたしが勝手に書いて、勝手に出す。番号は続けます。

写真を入れておきます。うちの前の海。朝の六時。朝のこの時間の海が一番きれいだっておばあちゃんがいうから、起きて撮った。インスタントカメラで撮って島の写真屋さんに現像に出したら、一週間かかった。

横浜の海とちがう色でしょう。

遥

*

No.21

拓海へ

(返事はいらないやつ)

宮里先輩が卒業して、鹿児島の高校に行った。見送りの港で、わたしもみんなと一緒に紙テープを投げた。船が出るとき紙テープが切れる。切れるとみんな泣く。わたしは泣かなかったけど、紙テープの切れはしをポケットに入れた。

意味は特にない。

こっちは梅雨。毎日雨で部屋の中がしめっぽいし、手紙の紙もしめってる。ごめん。

遥

*

No.22

拓海へ

(返事はいらないやつ、その二)

おばあちゃんが転んで腰を打った。入院はしなかったけど、民宿の仕事ができない。

だからわたしが朝ごはんを作ってる。お客さんに出すやつ。鶏飯じゃなくて普通の朝ごはんで、ごはんとみそ汁と魚と卵焼き。

卵焼きはまだ下手。お客さんの男の人に「これ、スクランブルエッグ?」って言われた。くやしかった。

拓海は卵焼き、上手?

(返事はいらないって書いたのに質問しちゃった。答えなくていい)

遥

*

No.23

遥へ

卵焼きは、フライパンを傾けて奥から手前に巻く。一回で巻こうとしないで三回に分けて、卵を足すときは巻いたやつの下にも流しこむ。

火は中火。強いとこげる。弱いとまとまらない。

砂糖を入れるなら小さじ一。入れすぎるとこげやすい。

これは手紙じゃない。

卵焼きの作り方。

拓海

読み終えて、どうでしたか

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