長編『返事は、港で』 第3章

中学一年 ― 先輩のこと

No.12

拓海へ

中学生になりました。制服はセーラー服。似合わない。

島の中学は三つの小学校から集まるから、全校で六十人くらいになって一気に増えた。

吹奏楽部に入った。楽器はトロンボーン。腕が長いからって顧問の先生に勝手に決められて、まだブーってしか鳴らない。

同じパートの二年の先輩がすごく上手。宮里先輩。ひとりで海に向かって練習してるのを見たことがある。かっこよかった。

拓海は何部?

遥

(字、ちょっと大人っぽくしてみた。どう?)

*

No.13

遥へ

サッカー部。

字、変わりすぎ。だれかと思った。

拓海

*

No.14

拓海へ

え、それだけ?

No.13は全部で二行だったよ。数えた。

部活いそがしいの? サッカー部って試合とか出てる? ポジションは?

こっちは宮里先輩にトロンボーンの吹き方を教えてもらってる。息をおなかから出すんだって。先輩は息を出すとき、ちょっと眉毛が上がる。

夏のコンクールに出る。地区大会。船で行く。船酔いするかも。

遥

*

No.15

遥へ

ベンチ。ポジションはベンチ。

練習は毎日ある。朝練もある。

宮里先輩の話はもういい。

拓海

*

No.16

拓海へ

なんで怒ってるの。

遥

*

(出さなかった手紙。番号なし)

遥へ

怒ってない。

怒ってないけど、なんか宮里先輩のことばっかり書いてあるから、何て返せばいいかわからなかった。先輩の眉毛の話とかどうでもいい。

それと字。大人っぽくしなくていい。前の字のほうがいい。前の字は「は」の丸が大きかった。

こっちは部活でベンチで、朝練がきつくて、家に帰るとお父さんがまだテレビを見てて、お母さんが帰ってくるのは夜十時だから、飯は自分で作ってる。鶏飯もたまに作るけど、一時間ゆでるのはもうめんどくさくて、スーパーの焼き鳥をさいてる。

こういうことを書くと遥がどんな顔をするかわからないので、出さない。

*

No.17

遥へ

怒ってない。

コンクールはどうだった。船酔いした?

拓海

*

No.18

拓海へ

船酔いした。行きも帰りも。

コンクールは銀賞。金じゃなかった。宮里先輩は帰りの船でずっと海を見てた。泣いてたと思う。

わたしは船酔いでそれどころじゃなくて、先輩のことは見てたけど、そのあとデッキの手すりにつかまって吐いた。最低だった。

また書きます。部活、がんばって。ベンチでも。

遥

*

(ここから一年、手紙はない)

読み終えて、どうでしたか

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