長編『返事は、港で』 第2章

小学五年・六年 ― 鶏飯のつくりかた

No.7

はるかへ

五年生になりました。

言いにくいことを書きます。お父さんの会社がつぶれました。三月に。それで四月からアパートにひっこしました。同じ学校には通えるけど、家はせまくなりました。ジローはアパートでは飼えないので、おじいちゃんの家にあずけました。

お父さんは昼間ずっと家にいて、テレビを見ています。お母さんはパートをふたつしています。

だからちょっと、手紙を書く気分じゃなかったです。No.6 の返事がおそくなってごめん。

新しい住所は下に書きます。前の家に出すともどってくるので気をつけて。

たくみ

*

No.8

たくみへ

新しい住所、書きうつしました。まちがえてないと思う。

たくみのお父さんのこと、わたしは何も言えない。わたしにはお父さんがいないから。いないというか、いたことがない。知ってたっけ。言ってなかったかも。お母さんは横浜で働いてて、夏休みと正月だけ島に来る。だからわたしのお母さんも、パートふたつくらいしてると思う。

この前、おばあちゃんに鶏飯のつくりかたを教わった。けいはん。島の料理。ごはんの上にほぐした鶏と錦糸卵としいたけとパパイヤの漬物をのせて、鶏のスープをかける。

錦糸卵が一番むずかしい。うすく焼いて細く切るんだけど、わたしのは太くなった。おばあちゃんは「うどんやね」と言って笑った。

つくりかたを書いておきます。たくみのお母さん、いそがしいなら、たくみが作ってみたら。

①鶏肉をゆでる(一時間。すごく長い)

②ゆで汁に塩としょうゆを入れる(おばあちゃんは量をはからない。「こんくらい」)

③鶏をほそくさく

④卵をうすく焼いて、ほそく切る(むずかしい)

⑤しいたけを甘からく煮る

⑥ごはんにぜんぶのせて、スープをかける

パパイヤの漬物は横浜にはないと思う。たくあんでいいと思う。

はるか

*

No.9

はるかへ

鶏飯、作りました。

一時間ゆでるのがたいへんでした。とちゅうでお父さんが「何作ってるんだ」と言って台所に来て、鶏をさくのを手伝ってくれました。お父さんはさくのが上手でした。若いころ焼き鳥屋でバイトしてたそうです。知らなかった。

卵はぼくも太くなりました。うどんです。たくあんをのせました。

お母さんがパートから帰ってきて食べて、「なにこれ、おいしい」と言いました。お父さんが「おれがさいた」と言いました。ぼくが作ったのに。

三人でごはんを食べたのは、ひさしぶりでした。

また何か教えてください。

たくみ

*

No.10

たくみへ

六年生になりました。

わたし、最近横浜の言葉をわすれてきてる。この前の電話でお母さんに「なんでそんな話し方なの」って言われた。自分では気づかなかった。

たくみの手紙を読むと横浜のことを思い出す。牛乳をくれる山本とか。プールとか。でも学校の廊下の色とかは、もう思い出せない。緑だった気がする。水色だったかも。

たくみの顔もちょっとあやしい。

写真送ってくれない? ジローと一緒でもいいから。わたしのも送る。島の子みたいに日焼けしたやつ。笑わないで。

はるか

*

No.11

はるかへ

写真を入れておきます。

おじいちゃんの家でジローと撮りました。ジローがうごいて、ぼくの顔がちょっとぶれました。これしかないです。

はるかの写真を見ました。

黒かったです。

笑ってないです。

廊下は緑です。

たくみ

読み終えて、どうでしたか

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