長編『返事は、港で』 第8章

二十歳 ― 出さなかった手紙

No.48

拓海へ

二十歳になった。成人式は島に帰って出た。振袖はおばあちゃんが若いころに着たやつで、丈が足りなくてつんつるてんだった。写真屋さんに「昭和ですね」と言われた。

こっちはゼミが始まった。近代文学。毎週三十ページのレポートを読まされる。読むのは好きだけど書くのが遅い。

あと、報告。

同じゼミの人と付き合うことになった。

手紙に書くことかどうか迷った。でもルールの一に「会わない」はあるけど、「言わない」はないから。

拓海のほうはどう? 専門学校卒業したんだよね。お店どこ?

遥

*

(出さなかった手紙。番号なし)

遥へ

おめでとう。

と、三回書いて三回消した。

おめでとうって思ってる。本当に。思ってるけど、字にするとなんかうそっぽくなる。

店は恵比寿の和食屋。見習い。朝七時から夜十一時までで、休みは水曜だけ。水曜は寝てる。

先月はじめてまかないを任された。親子丼。卵を半熟にしすぎて先輩に「ゆるい」って言われた。

遥に食わせたらなんて言うかな、と思った。

こういうことを思うのはルール違反な気がする。

*

No.49

遥へ

おめでとう。

店は恵比寿の和食屋。見習い。忙しい。水曜休み。

まかないの親子丼をはじめて任された。卵がゆるいと言われた。

拓海

*

No.50

拓海へ

No.49、短い。

中学のときの No.13 くらい短い。数えたら三行だった。

でも親子丼のことが書いてあったから、いい。

ゆるい卵、わたしは好き。とろとろのやつ。先輩の人に言っといて。

遥

*

(出さなかった手紙。番号なし)

遥へ

先輩に言っといた。「知り合いはゆるいのが好きだって」。先輩は「知り合いは客じゃねえ」と言った。

それはそう。

遥の彼氏ってどんな人。

と書いて、消して、また書いて、これは出さない。

読み終えて、どうでしたか

← 第7章高校三年 ― 同じ東京