長編『返事は、港で』 第9章
二十三歳 ― 島の葬式
No.55
拓海へ
おばあちゃんが死んだ。
先週の朝、民宿の台所で倒れてそのまま。八十九歳。
わたしは会社を休んで島に帰ってる。この手紙は島の郵便局から出す。島から出すのは六年ぶり。
お葬式は明後日。島のお葬式は家でやる。近所の人がみんな来て料理を作って、みんなで食べて飲んで歌う。お葬式なのか宴会なのかわからない。
お母さんはずっと泣いてる。わたしは泣けてない。なんでだろう。
おばあちゃんの民宿をどうするかは、まだ決まってない。
手紙が着くころには、お葬式は終わってると思う。
ただ知らせたかった。
遥
*
(拓海のメモ。店の伝票の裏)
水曜。有給二日。店長に頭下げた。
羽田→奄美 始発 7:10
現地 9:40着
鶏飯の材料、向こうで買う。
*
No.56
拓海へ
来るとは思ってなかった。
お葬式の前の日の朝、港の近くのバス停で、でかいリュックの男の人が地図を見ながらうろうろしてた。島の人はみんな、あれは誰だって言ってた。
わたしは一回見てもわからなかった。二回見てわかった。浅草から八年ぶり。背が伸びてて、わたしより高くなってた。
ルールの一、破ったね。
拓海は「会いたくなったから来たんじゃない。鶏飯を作りに来た」と言った。意味がわからなかった。
それから民宿の台所に入って、近所のおばさんたちに混ざって鶏飯を作った。鶏をさいて、しいたけを煮て、錦糸卵を焼いた。
錦糸卵は細かった。すごく細くて、糸みたいだった。
近所のおばさんが「これ、誰が教えたの」と聞いた。拓海はわたしのほうを見た。
わたしは「おばあちゃん」と言った。
それで、やっと泣いた。台所で、おばさんたちの前で、鶏飯のスープの鍋の前で。
拓海は何も言わないで錦糸卵を切り続けてた。包丁の音だけがずっとしてた。
次の朝の飛行機で拓海は帰った。港まで送った。飛行機だから紙テープはない。
バス停で拓海が言った。「手紙、書く」
「うん」
「番号、続けて」
「うん」
それだけ。
お礼を書こうとして三行書いて、消しました。うまく書けないので、これで終わります。
遥
読み終えて、どうでしたか