あてなの ない てがみ
もりの 木の はっぱが、きいろや あかに なりはじめた ころの おはなしです。
ゆうびんきょくの まどぐちで、ふくろうの きょくちょうが くびを かしげて いました。
「チクタくん、これを 見て くれたまえ」
それは、はっぱで できた ちいさな ふうとうでした。あてなの ところに、こう かいて あります。
『もりで いちばん はやく ねる ひとへ』
「なまえが かいて ないです」
「かいて ないのだよ。でも、ゆうびんは とどけるのが しごとだ。たのんだよ」
チクタは ふうとうを かわの かばんに いれました。まえに きょくちょうから もらった、あの かわの かばんです。もう てがみに あなは あきません。
ひとつめは、うさぎの いえ。
うさぎの いえの まえは、ほしくさの いい においが しました。
「うさぎさん、よるは なんじに ねますか」
「わたし? わたしは よるは ねないわよ。よるは かけっこの じかんだもの。ねるのは おひさまが 出てから」
うさぎは 耳を ぴんと たてて、ぴょーんと はねて みせました。
ちがう みたいです。
ふたつめは、たぬきの いえ。
たぬきの いえからは、ぐうう、ぐうう、と 大きな いびきが きこえて いました。
「たぬきさん! もう ねてるんですか! はやい!」
すると いびきが ぴたりと とまって、たぬきが かた目を あけました。
「ねてないよ。ねた ふりの れんしゅう。たぬきは、ねた ふりが とくいなんだ」
「じゃあ、ほんとに ねるのは?」
「まよなか。おなかが すいて、なかなか ねむれないの」
ちがう みたいです。
みっつめは、りすの おばあさんの いえ。もりで いちばん たかい 木の うえです。
チクタは とげを ひっかけながら、えっちら おっちら のぼりました。木の かわは ざらざらで、てのひらが くすぐったく なりました。
りすの おばあさんは、どんぐりを かぞえて いました。まごたちは もう ねて いて、すう、すう、と 小さな ねいきが きこえます。
「まごたちは 八じに ねるよ。でもね チクタさん、もっと はやく ねる ひとが いるよ」
「だれですか」
「この あいだ、きみが どんぐりを とどけて あげた ひと」
チクタは はっと しました。
いけの ほとりの、かめの おじいさんです。
チクタは 木から するする すべりおりて、いけまで はしりました。ゆうがたの 空が オレンジいろに なって いました。いけの 水は つめたそうで、ぽちゃん、と さかなが はねる 音が しました。
かめの おじいさんは、どろの ベッドの 中で、くびを はんぶん こうらに しまって いました。
「おじいさん! もう ねますか!」
「うむ。ねる。はるまでな」
「はるまで!」
かめの おじいさんは、さむく なると、はるが くるまで ずうっと ねむるのです。もりで いちばん はやく ねて、いちばん おそく おきる ひとでした。
チクタは ふうとうを さしだしました。でも おじいさんの 目は、もう とろんと して いました。
「チクタくん、よんで くれんか。めがねは もう しまって しまった」
チクタは ふうとうを あけて、ゆっくり よみました。
『かめの おじいさん、どんぐり おいしかった? はるに なったら また あそぼうね。おやすみなさい。 りすの まごたちより』
よみおわると、おじいさんは ふうっと ながい いきを はきました。
「へんじは、はるに かこう。おきたら いちばんに かこう。それまで、それを ここに おいて おいて くれ」
そう いうと、おじいさんの くびは、こうらの 中に すうっと きえて いきました。
チクタは てがみを、おじいさんの こうらの うえに そっと のせました。はっぱの てがみは、ちいさな おふとんみたいに みえました。
ゆうびんきょくに かえると、きょくちょうが ランプを つけて まって いました。
「とどいたかね」
「とどきました。へんじは、はるです」
「はるか。それは ずいぶん ながい はいたつだ」
きょくちょうは、ほう、ほう、と わらいました。
チクタは かべの カレンダーを ぺらぺら めくって、ずっと うしろの 三月の ところに、ちいさな まるを ひとつ つけました。
それから まるく なって、あっというまに ねむって しまいました。
その よる、チクタは もりで 二ばんめに はやく ねた ひとでした。
読み終えて、どうでしたか