実話実話約2分

「ウォーター」

一八八〇年、アメリカ・アラバマ州に生まれたヘレン・ケラーは、一歳七ヶ月のときに高熱の病にかかった。

命は助かったが、ヘレンは視力と聴力を失った。

見えず、聞こえないのだから、言葉を覚えることもできない。ヘレンは自分の思いを伝える方法を持たないまま育ち、思い通りにならないと物を投げ、床を転げ回って激しく泣いた。家族はどうすればいいのかわからなかった。

ヘレンが六歳のとき、一人の女性家庭教師がやってきた。アン・サリバン、二十歳。自身も幼い頃に視力を失いかけた経験を持つ人だった。

サリバンはヘレンの手のひらに指で文字を綴って教え始めた。人形を渡しながら「D-O-L-L」。ケーキを渡しながら「C-A-K-E」。

ヘレンは指の動きを真似することを覚えた。けれどそれが「物の名前」だということは理解できず、ただの遊びだと思っていた。

一ヶ月が経った一八八七年四月のある日。

サリバンはヘレンを井戸のポンプに連れていった。ヘレンの片手を冷たい水の流れの下に置き、もう片方の手のひらにゆっくりと綴る。

「W-A-T-E-R」

何度も何度も。

ヘレンの体が止まった。

手のひらに流れる冷たいもの。その冷たいものには名前がある。すべてのものには名前がある。

ヘレンは後にその瞬間を振り返り、自分の魂が目覚めたと書いている。

その日のうちに、ヘレンは地面やポンプや木など、たくさんの言葉を覚えた。目の前にいる人を何と呼べばいいのかも。

「T-E-A-C-H-E-R」

それからのヘレンは貪るように言葉を学んだ。点字を覚え、話すことを学び、やがて大学を卒業すると、世界中を回って障害のある人々のために生涯を捧げた。

サリバンはヘレンのそばに五十年近く寄り添い続けた。

ヘレンは日本も訪れている。幼い頃、母から「塙保己一」という、目が見えないながら偉大な学者になった日本人の話を聞かされ、心の支えにしていたという。

※史実をもとに再構成しています。

#元気が出る話

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