二十歳の封筒
僕は児童養護施設で育った。親の顔は知らない。生後二か月で、施設の玄関の前に置かれていたらしい。バスタオルにくるまれて。そのバスタオルは、ホームセンターの粗品だったと、中学のときに職員の人がぽろっと言った。どうでもいい情報なのに、なぜかずっと覚えている。
成人式の朝、スーツを着て施設に顔を出したら、園長先生に呼ばれた。
「これ、二十歳になったら渡してって、預かってたの」
茶封筒だった。宛名も差出人もない。
中には便箋が一枚と、古いお守りが入っていた。お守りは「安産祈願」と刺しゅうされていて、紐がほつれていた。
便箋の字は、ボールペンで、ところどころ強く押しすぎて紙が破れかけていた。
「あなたを置いていったことを、許してくれとは言いません。あのときの私には、あなたを育てるお金も、家も、頼れる人もいませんでした。せめて、あったかい布団で寝られるところにと思って、施設の前に行きました。
あなたが生まれた日、病院の窓から見えた空が、すごく青かったです。それだけ覚えていてください」
便箋はそこで終わっていた。名前も連絡先もない。
僕は何年も前から想像していた。もし親が現れたら、何を言ってやるか。なんで捨てたのか。今さら何なのか。二十歳の僕はそれを言うつもりでいた。
なのに手紙の相手はどこにもいない。怒る先がない。
「空が青かったって、それだけかよ」
声に出したら園長先生が少し笑った。
「その人ね、毎年あなたの誕生日に、門の外まで来てたのよ。中には入らないで、少し見て帰っていった。あなたが小学生のころまでかな。そのあとは、来なくなった」
「なんで来なくなったんですか」
「わからない」
園長先生はそれ以上言わなかった。本当にわからないのか、言わないのか、僕にはわからなかった。
封筒をスーツの内ポケットに入れて、成人式に行った。市の体育館は人でいっぱいで、振袖の子たちがずっと写真を撮っていた。僕は施設の同期の二人と、後ろのほうに座った。
式の途中で市長の話が長くて、隣のやつが寝た。僕は内ポケットの上から、封筒の角をさわっていた。
帰りに、スマホで僕の生まれた日の天気を調べた。二十年前の五月十四日。
晴れ、だった。
読み終えて、どうでしたか