創作見知らぬ人約2分

のり弁と缶ビール

深夜のコンビニでバイトしている。

毎晩十一時過ぎに来るお客さんがいた。四十代くらいのスーツの男の人で、買うのはのり弁とスーパードライの三五〇。毎日同じ。

話したことはない。「温めますか」「お願いします」。それだけ。心の中で「のり弁の人」と呼んでいた。

ある週、のり弁の人が月曜から日曜まで一度も来なかった。

次の月曜に来たときは何か違った。スーツはしわしわで、ひげが伸びていて、レジに持ってきたのはのり弁だけでビールはなかった。

「温めますか」

返事がなかった。弁当を見たまま固まっていた。

「あの……」

のり弁の人ははっとして顔を上げた。

「あ、すいません。会社、クビになって。一週間、家から出られなくて。今日、やっと」

なんて言えばいいのかわからなかった。ただのバイトとただの客だ。なのに口が勝手に動いた。

「一週間来なかったから、ちょっと気になってました」

のり弁の人はきょとんとした。

「毎晩のり弁とスーパードライですよね。今日、ビールないんですね」

「……覚えてたんですか」

「十一時過ぎの、のり弁の人」

言ってから、本人に向かって「のり弁の人」と言ってしまったことに気づいた。のり弁の人はちょっと笑って、目のあたりをこすった。

わたしはのり弁を温めて袋に入れた。それから自分の財布でレジの横のプリンを一個買って、それも袋に入れた。百八十円。

「これ、おまけです。店長には内緒で」

三か月後、のり弁の人がまた来るようになった。新しいスーツを着ていた。

「再就職、決まりました」

のり弁とスーパードライと、プリンを二個レジに置いた。

「一個は、あなたの分です」

うれしかった。けど、わたしはプリンがそんなに好きじゃない。あのときはレジの一番手前にあったから入れただけだ。

言わなかった。休憩のときに食べた。おいしかった。

#心温まる話 #元気が出る話

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