川柳欄
新聞の川柳欄にはがきを出しはじめたのは、六十三のときでした。主人の定年のお祝いの席で、息子が「母さん、口が悪いから川柳向いてるよ」と言ったんです。ほめてるんだか、けなしてるんだか。
地方紙の、日曜版の、読者文芸のページ。短歌と俳句と川柳が並んでいて、川柳は毎週十句くらい載ります。選者の先生がいて、一番いいのに「天」、次が「地」、その次が「人」。あとは並び。
十一年、出しました。週に一枚。一枚に三句まで書いていいので、三句書きます。はがきは、最初は五十円でした。それが五十二円になって、六十二円になって、六十三円になって、今は八十五円。八十五円ですよ。一句三十円弱。
一回も、載っていません。
並びにも、載っていない。
最初の二年くらいは、日曜の朝、新聞を開くのがどきどきしました。三年目くらいから、どきどきしなくなりました。五年目くらいから、載ってる人の名前を覚えるようになりました。「千葉 松本ハナ」さん。この人は月に二回は載ってる。「市川 無名子」さん。名前が無名子なのに、しょっちゅう名前が出てる。
私の句がだめな理由は、なんとなくわかっているんです。長いの。字余りなの。言いたいことが多すぎて、五七五に入らない。主人の靴下のこととか、スーパーのレジの人の手際のこととか、隣の家の犬が私にだけ吠えることとか。
主人は、私の句を一回も読んだことがありません。読ませてと言われたこともない。はがきをポストに出しに行くとき、玄関で「また出すのか」と言うだけ。
去年の夏、主人が入院しました。胆石で、大したことはなかったんだけど、十日。
その十日のあいだ、はがきを出すのを忘れていました。忘れていたというか、書く気にならなかった。病院の売店で新聞を買って、主人のベッドの横で読んでいたら、主人が「今週は」と言ったんです。
「え?」
「今週は、出してないのか」
出してない、と言いました。主人は、天井を見たまま、「ふうん」と言いました。それだけ。
退院した次の週、はがきを出しました。三句。一句は、病院の売店のサンドイッチが高いという句でした。一個四百二十円。
載りませんでした。
でもね、その日曜の朝、新聞の読者文芸のページが、テーブルの上で、主人の湯のみの下に敷いてあったんです。開いたまま。主人は新聞のスポーツ欄しか読まない人ですよ。湯のみの輪じみが、ちょうど川柳の欄の真ん中についていました。
今週も書きました。三句。一句は、字余り。
ポストは、うちから坂を下りて二百メートル。帰りの上りが、年々きつくなります。
読み終えて、どうでしたか